惑星バセンジー7

16◆ユキホはお熱!

「ユキヒョウ!しっかりして! 目を開けてよぉぉぉ~!」


何かに抗うように、うなされて暴れるユキホをミヨシは必死に押さえこむ。


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ユキホは幻夢の世界にいた。


SKの地下室で太いシールドチェーンに縛られて動けない。


その隣に佇むのは血吸いコウモリと恐れられる蜂村蜜だ。


「いいざまだね。」

ハチは悪魔の笑みを浮かべる。


「  ぅぅ……。」


薄れかかる意識、ぼやける視界、

ユキホはその先に、ミレイユの姿を見つけた。


「  ……!!キリコっ。」


さらにその向こうにも人影が……


誰だ?ぶっちょうずらか?  ヒョウマか? それとも……


その人影はだんだんハッキリとその姿を現した!

 

?!!!  赤い虎!


虎紋呪だ!  


 SKグループ総帥  虎紋呪  祥!!

 

ミレイユを捕らえるかのように、大きく手を広げる虎紋呪。


危ない!逃げろ!!


キリコおおおおぉぉぉ~ーーー!


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「ばか!あほ!キリコ、キリコって、人の心配してるとこじゃないんだよぉ!!もぉーー」


二人は森の洞窟の中に姿を隠すように潜んでいた。


それは早朝、まだ暗いうちに出発したオブジェたちが一夜を過ごした場所だった。



「  ぅぅ…。キリコぉぉ~  …そっちにいっちゃ…だめだ!!」


「( 。゚Д゚。)もう!ユキヒョウ!キリコなんていないよ! そんな暴れるなってばっ!」

バタつくユキホの手をつかむ。


「くそーっ、はなせ!はなせえええぇ!  キリコォォォー!」


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ミレイユは相変わらず草原のくぼ地で、草花や木々に夢中になっていた。


ミレイユは ふと顔を上げて、辺りを見回す。


心地よい風が吹き、小鳥のさえずりも聞こえる。

優しい自然に囲まれ、周辺にはなんの異変も感じられない。


「……なにかしら…」

しかし、何故だか落ち着かないミレイユ。


「  アハハ! 先回りして敵の一個中隊を全滅させたのは最高だったねぇ!」


ハチたちはゲームとはいえ、アリラートスォ大戦で大勝利を納め、その余韻に興奮覚めやらずだ。


「はい、我々があの占領区を保守する限り、無敵の絶対王者です。帝国戦線まで、さらに兵力をあげましょう。」


「ああ!帰ったらメインデッキで武器の再調整しようじゃないか。」


広げたテーブル等を片付けるマウゴラに笑顔を向けるハチ。


ハチが笑ってる…とミレイユも微笑むが…心のざわつきがおさまらない。静かに目を閉じた。


(だれか…私を呼んでる?)  


「 ユキホ?!」


シュ…シュュゥン!!


さほどテレパスが得意でないミレイユだが、ユキホの激しい精神感応は察したようだ。


「! どこいくのさっ!」


気づいたハチが声をかけるが、ミレイユは一瞬にして消えていった。


「???  なにが起きましたか?ミレイユはどうなりましたか?」


マウゴラは解析できずに混乱する。


「 ふん、ほっときな、あの女に心配なんかいらないよ。」


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シールドチェーンを外そうともがく!

いや、現実はミヨシの腕を振り払おうともがく!


「なんなんだよぉー、ユキヒョウのわからずや~!キリコなんてどうだっていいじゃないかぁ~、竜崎さ~ーーん、竜崎さぁーーん、早くきてよぉ!」


ミヨシはユキホを抱きかかえたまま、やけくそになって泣きわめく!



バシュュユン!!


そこへ、現れたのはレイラではなくミレイユだった。


パレポロスとの戦いでボロボロになったユキホとミヨシの哀れな姿を見つける。


(ユキホ!)


「?!… どうしたの?  なにかあったの? 」


ミレイユは近づいて静かに声をかけたが…


「 うっ!だ、だれだ、お前っっ  」


ミヨシは慌てて銃を抜いて構える。


「(;´゚д゚)ゞ  まって、何もしないわっ  私は…ミレイユ。   …怪我してるの?具合が悪そうね…」


日頃、不死身のユキホだ。耐性強度な肉体、有機化合物はもちろん人工化合物などにも強く、透過性の高い細胞膜は仮死状態で核酸の修復機能を持ち、そのため外傷の治癒能力も高い。


こんな弱った姿を見るのはミレイユも初めてである。

「  ミレイユ?(  SKグループの…小松原重工の娘 …ランクSの捕獲《キャッチ》か、抹殺《チート》対象者だ!) 」


ここで殺れれば、最高任務を果たせたことになる。


銃口を向けたまま、ミヨシはミレイユをじっとにらんだ。

トリガーにかける指には力が入る。


「…やめて。争う気はないわ!」


ミヨシの殺気を感じでミレイユは眉をよせる。


「キリコ~ーー、逃げろっ、早く!はあはあ」


「あっ!ユキヒョウ!怪我するって!」


もう任務とかそれどころじゃない!と、

暴れるユキホを抑えるためにミヨシは銃を放り出した。


「   そのままでは危険だわ💦」

心配そうにのぞきこむ。


「カッ!わかってるよ!熱は上がってるし意識は戻らないし、私があの時、ごちゃごちゃ言ってたからっ( >Д<;)  ユキヒョウが💦ユキヒョウが虫に噛まれたんだ(TдT)  全部、私のせいだよぉぉ!」


ユキホを必死に抱き締めて涙をボロボロ流すミヨシ


「…はぁはぁ キリコぉ。」


ユキホは高熱に侵され苦しみながらも幻夢をさ迷いキリコを探す。


「  もぉーっ。キリコじゃないと、きりこじゃないとダメなんだよ~ぉおおお!うわーん、ユキヒョウが、ユキヒョウが死んじゃうよぉーー。」


とうとう子供のように大声で泣くミヨシにミレイユは思わず駆け寄った。


「  大丈夫。あなたはよくやったわ。もう大丈夫よ。」


ミレイユの温かい手が二人を包みこむ。


「…(*´▽`*)」


ユキホは安堵した表情になり大人しくなった。ミヨシも不思議とホッとして、こわばった体から力が抜けて行く。


「…あなたはキリコ?」

ユキヒョウが求めていたものはこれなのか………。


先にユキホがキリコをミレイユと言っていたことをミヨシはすっかり忘れていたのだ。


見つめるミヨシにミレイユは優しく頬笑む。


「 行きましょう」


そして二人をしっかり抱きしめて、洞窟から一気にジャンプした。

17◆何を見た?!


フィメルバデ山の 山頂からは、ハチ達がいた美しい湖が見下ろせる。


「  もぉ、あったまくるから、ここに家を作って、三人で暮らすことにしない?アッハッハ」


マコトが笑う


「 クスっ! ちゃんと壁のある家ができたらね-w」


マコトたちは途中で集めてきたウグネラの巨大な葉や不思議な感触のイサホゴン科の大木の枝など色々使って楽しそうに何かを作っていた。


「壁はないけど屋根はある-w

隣も空いてるからどーぞ(^ー^)」


木を立てかけ、つるを巻いてウグネラの葉を乗せた日よけのようなものを作り、さっそうと寝そべるマコト。


「バカじゃないのぉっっ( 〃▽〃)」


と喜ぶスズカ。


「 マコト! サボってないで、そっちのセンサードラントのワイヤーを確かめろ。」


「はいよ 、鬼大将。」


オブジェは相変わらず、気難しい表情で野営のための防護体勢を整えている。


あれから殆ど休憩することなく登り続け、山頂付近までやって来た。


しかし、期待を大幅に裏切って、どこの基地局とも一切、交信できないという絶望的な現状。


20kHz程度の周波数しか感知されず、現代人のオブジェたちには、それが一体どういうことなのか? 


まったく想像が及ばなかった。


だからといって、すぐに下山して別の方法を考えるという切り換えの頭も体力も残っておらず、今日のところはこの見通しのよい場所で野営の準備をして留まることに決めたのだ。


次どうするかなんて誰も考えたくないようだ。


「ん、ここがうまく削れないわ(;-Д-)  」


スズカは皿のようなコップのような、そういった類いの何かを作っている。


「  …貸してごらん、ナイフをこう持って。」


シュリ シュリ


オブジェは器用に縁を削って、深い丸みを出してゆく。


「ふーん、上手いわね!」


「…(о´∀`о)」


またもやマコトはオブジェの真剣そのものの横顔に釘付け。


「…?。」


視線に気づいたオブジェが顔をあげると、ごまかすように誠は口を開く。


「オブジェ~、おれのも作って」


「 ムっ! 甘えるな。」


「  ふふっ。そういうと思った-w   」

冷たく言い捨てられても嬉しいようだ。


「大丈夫よ、みんなのやつを作ってるんだから!」


この先どうなるのか、どこへいけば帰れるのか、何も分からない状況でありながら、スズカはなぜか楽しい気持ちになっていた。


三人でこんなふうに暮らすのも悪くないかも。


そんなことを想いながら微笑み、青々と輝く広い湖を見渡す。






「!!  あーーーー!見て」


「なによぉ?  急に!  ビビらすのやめてくんない?」


スズカの大声に驚いて辺りを見回すマコト


こんな山の上でもバケモノか!


慌てたおかげで木にひっかかり葉っぱの囲いを横倒しにしてしまう。


「   なんか……変なものが飛んでたのよっ!」

スズカは呆けた顔で指差す


「  でかい鳥とか?  来る途中いっくらでも見たっしょ。」


まったく!もう。と倒れかかった木を起こしながら。


「…ちがう!鳥なんかじゃないわ!  なんか、円盤、円盤みたいなやつよ!」


そう、鳥ではない。


スズカは湖を横切り西の山に消えていったハチたちの複座型エルクーンを見たのだ。


「はぁーー?お宅、なにいっちゃってんのさ!幹事長さま、お笑いのセンスあるのか、ないのか-w  円盤って?微妙~-w  でも笑える~~。アハハハハ。笑えるからセンスあんのかぁ  アハハハハ!」


誠は大爆笑している。


「ふざけないでっ!真面目にいってるんだから!」


「また、またぁ~、そんな怖い顔して! あと、どんなオチがあんのよっ。」


「  マコト……」


妙に深刻な声色のオブジェ。


「  なによ-w」

笑い顔に涙まで浮かべているマコト


「  💧 …私も見たんだ」


「はい?」


「……巨大なロボットだ、すぐ消えたが、ロボットだった💧」



「?? えー?」


三人は顔を見合わした。