ビクトリアナーチ25

㉛磯場の絶壁





二人は眼下にパールビーチが見渡せる高台にいた


「ユキホ!  クジラの群れよ~ 」


巨大なルクピリオスたちが波を操り、渦を作りながら、泳ぐ姿が見える


岩壁の先から 指差すミレイユ


ユキホも、険しく切り立つ大岩の上にあぐらをかいて、広い海を眺めていた


「 ……。あれ、一匹食えるくらい腹立った   」


「ふふ、ユキホったら-w  」


爽やかな潮風に包まれ、ミレイユの髪がなびいている


そこは、穏やかな空と海の狭間


「…もう、平気?  みんなのとこに帰れる? 」フラワー神殿で待ち合わせよ


「  うん、ごめんよ、キリコ  」


「   ユキホ…、感情をちゃんとコントロールして!     征弄じゃないからこそ、関係のない人をキズつけたり、何かを壊したりしてはいけないわ!  」


「  ……  うん  」


素直に頷いたが、

遠くを見る目は まだ ギラギラと燃えていた


“  作品じゃない! ”

“  バケモノじゃない! ”


黙っているが ユキホの思想が、ミレイユの頭の中に流れ込んできて、

とても 心が痛かった


「   …ユキホ  」


ミレイユは駆け寄って ぎゅっと ユキホを抱きしめる


「  私たちはずっと一緒…  ヒョウマもあなたも 私の大切な家族…いつまでも、ずっと 一緒よ  」


「…… 。  うん 」

抱きしめられたまま、じっと大人しくしている


深い愛に包まれて、ユキホの心は穏やかなものに変わってゆくのであった





㉜フラワーホール神殿




「ここは、ナミアンの最古の神殿と言われてるわ!  岩に巻かれた聖なる鉄枷《てつかせ》で母神を留まらせているんですって!

我々は、これから益々  激しい戦いが続くのよ!     今、この強力な霊場で、イザルナミアンのご加護を賜り、 ブラッセルの勝利と栄光を!

帝国の永劫的繁栄を!

心から祈願するのよぉぉ!」


スズカは、仁王立ちで叫ぶ!


「  いや~‼️  この巌立《がんだて》は、 なんだか恐怖心を引き立たせますね💦  」


カメラを回しながら、スプラは辺り一帯を眺めまわす


「あたいは、スズカのが よっぽど怖いよ  -w」

「 (^。^;) ブラッセル人より、ブラッセル人ぽいです~ 」


顔を強張らせ、唾を飛ばして喚いているスズカを、苦笑いで見つめるハチとラディア



「  さぁ!レオン、先達《せんだつ》よ!  拝礼と奉納を!     ラディア、神饌《しんせん》を準備して! 」


「💦  はい! 」


慌ててラディアは走ってゆく


「 えー?!  この岩壁に?」


見上げるレオンの横で、手を振り、全員に整列を促すスズカ

「みんなも早く!」


ルフィーは嫌な表情


「 ナミアンの像もねぇのに、こんな鎖の岩に誓願《せいがん》する意味あんのかよ 」


フラワーホールは、母神イザルナミアンの墓 、とも云われる最古の神殿であり、壁の如く聳《そび》える巖《いわや》全体が分厚い鎖で覆われ、ご神体として祀られている…


ナミアンの最強の武器であり、自身が纏《まと》う 漆黒の鎖鎌は、 抗《あらが》う者を叩きのめし、次々と 地獄の山洞に引きずり込み、 二度と出ることを許さないという恐ろしい呪縛力を持つ!  ブラッセルでは、恐怖を司る戦いの女神として崇め奉られてきた



「  御贄《みにえ》のお供えをさせていただきます、ご無礼のほど、お許しくださいませ… 」


ラディアが すごすごと、奉納の御膳を運び、神前へと並べる、

礼拝式典にのっとり、レオンは地面に膝をついた。


「  どうか、この奉納を受け入れ、祈念を聞き入れたまえ!  」

辺りに その声は響きわたる


ルフィーたちも、厳かに レオンの後ろに並んだ



オース《懐刀》を引抜き、ためらいなく、手のひらを切るレオン。

ルフィー以下、部隊兵のスキャルバ、エップ、ハチ、レイラ、そしてスズカは同様に 膝をついて、手のひらを切ると、グッと強く握りしめ  同じように その血をナミアンの大地に吸わせた


「 我らが、ここに 母神の忠実なる僕《しもべ》である証を示す!  

ことごとく 打ち砕きし、敵の血と肉と骨のすべてを捧げ、神器を満たす供物として 献上することを誓うだろう!

 この奏上をもって、我らへ!

ナミアンの 加護の光と金剛不滅の力を与えたまえ! 

全軍を勝利へと導き与えたまえ!」


レオンは深々と頭を下げる


“   加護の光と金剛不滅の力を与えたまえ!    全軍を勝利へと導きたまえ! ”


ビシッ!!


皆も鋭く復唱すると、左手を土に浸け、右手は己の心臓を二度 叩き、敬礼すると   誓願の儀を果たした


「 ひゅーー! 恐ろしいブラッセル軍の礼拝の儀ですよ~~  」


張り詰めた空気の中、その様子を、突っ立って撮影するスプラ、その袖をラディアは引っ張った


「  座ってください💦  スプラさん 」

「  ラディアさんは、やらないんですか? 」

 ニコニコして、手を切る仕草をして見せる


ラディアは、慌てて しーっと、唇に指をあてた


代わりにクレインが吐き捨てるように口を開く


「 DAのマイラー〔非戦闘員〕はオースを持ってないわ!  だいいち、血杯《けっぱい》の拝礼なんて、時代遅れの風習!  それを続けるのは、進軍の故老《ころう》将軍たちと、その配下だけっ 💢 」


「  おかしいわね~、紛れもなく貴女も その配下だけども-w  」


立ち上がると 微笑むレオンを、睨むクレイン。


そこへ割り込むように、興奮したスズカが駆け寄った


「 素晴らしかったわ~~✨

 レオン、厳かで神秘的、周辺は 女神の気が漂っていたわよ、きっとナミアンはお慶びだわ❗️ 」


「  そうだといいけど!  さぁ!

お昼ご飯食べに行きましょう✨ 

 そして、やっと 私たちも  パールビーチでリゾート バケーションね!🎶 」


「 ヒャッハハハーーい!! やったぜぃ! 」

「 それよ!それ! バケーショーンよぉーーーん 💕」


レオンたちが子供のようにはしゃいでいるが、スズカの軍人魂は炸裂する


「 ダメダメ!!   パールビーチなんて戻ってる暇はないわよ! この神殿前の海岸にだって、行かなくちゃならないし💢  」


「  💦  え~~!  なんでよぉ!

もぉ~、いつになったら、あたしの可愛すぎる水着姿が  お披露目できるっていうのよぉ~  全宇宙が待ってるのよぉ~~💦 」

身をよじるエップ


「  何を言ってるの!  誰もそんなの期待してないわ!! 」まったく💨


「なんでぇぇ、ひどぉーい!! 

あたしのファンタスティックバティに、熱狂ファンたちが、もう、トロけちゃってぇ、どうしようって~~✨  

みんな待ってるのよぉ~~  💦 」


「  バカね!  みんなが待ってるのは、うちの大将! 可憐すぎるレオン閣下が、水着姿になることに決まってるじゃないの!💢  でも ダメよ!いいのよ!  ミレイユが 昨日、安っぽい裸体を晒《さら》して 脱いどいたんだし、ふん!それで もう 以上 終わりよ!     なんていうの?  私的には、ミレイユなんか  人気ですって?    全く理解できませんけどね!💢 」


なんとしてもレオンの水着姿をガオウに撮らせたくないという、悪意あるスズカの裏工作か!!


「  あたしもぉ~、そこは同感ね~😁  ナンバーワンは、いつも!

あ~た~し~👍 」



そんなことを  ごちゃごちゃと  ぬかしているスズカとエップをよそに、みんなは どんどん  ロッククリフのタクトフル茶屋に向かうのだっ!


「  ふぅ💨 」

クレインはレイラをも凌《しの》ぐ不機嫌な表情で歩く


「  お前はなぜ、祈らなかった… 」

珍しく声をかけるレイラに、ムッとして振り返る


「 あなたはっ!  フォリナなのに、あれに違和感は感じないのか?💢」


「…? 今は、ここが私の準ずる場所だ   」


「 💦  その言葉は、ブラッセル人として、とても光栄で 嬉しいけど💦

敵とはいえ、人の命を贄《にえ》にして、祈願するなんて あってはならない事だ!そう思わない?」


「 もし、それが機構の在り方なら、私は、それに従い、なんの疑問もいだかないだろう  お前は なぜ、  」


「リュウ、やめとけ  」 

 もっと怒らすだけだ 😁 

ルフィーがレイラの肩に手をやる


「  …。」


「 💢 私は! それが どんなに務めと言われてもっ!   そんなことはしたくない! どけっ  ルフィー 」(`Δ´)

ルフィーを押し退け、クレインは行ってしまう


後に残った二人は タバコに火をつけ、ゆっくりと進む


「  …あいつは、パラ公に なんか吹き込まれてから、やたら 訳わかんねぇことをぬかすようになったからなぁ💦  」前から、ちょっと変わってたが あそこまでじゃなかったよな?


「  お前は クレインをどう思う? 」

レイラは、チラッとルフィーを見る


「 へ?」


そのフレーズって…とルフィーは、一瞬ドキッとするが

「 おれは、これといって💦」


「 やつの言い分を、聞いてみる気はないのか?」


「  ああ💦   権利だの平等だのってあれか?   頭がイカれたか、パラ公にでもなったかと思ったぜ!   今だって、そうだろ?  何を言おうと絶対 無理だ、こういう事で、二度と話したくねぇのが本音だな 」


ルフィーは苦い顔でタバコの煙を吐くと  続ける

「  オレだって別に、祈願なんて必要ねぇよ。  フィールドじゃ   自分を信じて    とにかく、 一匹でも多く殺るだけだ!  そうだろ? リュウ  」


「  …。ああ  確かに  」

戦場でやることは一つ、それについては同意見だが、私が言いたかったのは…クレインが決して 口にしない言い分について…だが


揺れる木立の枝から、流れる雲に向かって 飛び立つ鳥たちの姿

それを 目で追うレイラ


「  ふっ、余計なお世話だな…  」