ビクトリア🌼ナーチ3

③リゾート辞令



別階のホールでは、ラウガとクレインが話し込んでいた。

聴聞会での一部始終をラウガは、クレインに話して聞かせたのだ。

そうすることで、少しでも怒りを収めて欲しかったから。

だがクレインはまた別の意味で憤慨した。


「 なんで そんなテンカウントまで粘れって!そんな命令するなんて異常すぎる!だいいちラップパイオ性の高威力ロケットを大量に積んでるという時点で、自爆する気 満々なのは明白だろう!そんな艦をスイマ砲で片付けようとか、まったく無能な司令官よっ。星系エリアに近づける、その事こそが重大なミスじゃないか!あいつが死ねば良かったのに!」


「ああ、だが下級兵士が生き残ってBトルの基長が死んじまったら…そりゃ俺らは タダでは済まないだろうって。軽くて懲罰部隊に二年、悪くすりゃ軍法会議で懲役にぶちこまれるって話だが…💧」


「まさか!命がけで戦って、なんで懲罰部隊だっ。ましてや懲役なんて、ふざけてる、進軍刑法の何に違反したというんだッ!」


怒りを爆発させながら、クレインは  さっきのルフィーの表情を思い返していた。


なんで 気遣う言葉の1つもいってやれなかったのか…仲間を失い、R² Oを無くして、あいつの方がどんなに辛いか分かってるはずなのに…


( 私は本当にダメだなぁ…何もわかってない  )


クレインの心の嘆きに追い打ちをかけるようにラウガは昔の話しをぶっちゃける


「ルフィーは、お前がパラ公にラチられた時も行政処分で一週間のトリカゴ(拘禁刑)と三ヶ月の謹慎を食らったんだ。連隊長たちには、よく自分だけ逃げ帰ったなって責められてた、それもあって目をつけられてるのかも 」


「…。(-_-;)」

そんなこともあったなぁとクレインの表情はひきつる。嫌な記憶だ


「そういや、あん時の真相はどうなんだよ?お前たちの駆け落ちってやつ、笑…まさか事実なのか?」

ラウガは興味津々だ。


「そんな下らない噂…馬鹿げてる💦」


突然気づいてしまった自分の想い。


あの頃は、どうしていいか分からないまま息苦しい感情に胸を痛めて、またそれを認めたくないという自分自身にも苦悩した。


「そういや、あんときもレオンがパラメリアン討伐隊にルフィーを引っ張って、やつの出撃停止処分を解除した、今回だって議長と審議会を黙らせて、あいつに救いの手を差し伸べたんだぜ。レオンは、かなりルフィーに入れ込んでるよな、なんでなんだ、あいつばっかモテてよ、おれの方が絶対イケてるのに」


MY鏡を出して、自分を見つめながら髪をいじるラウガ


「レオンなんか!レオンの話なんかどーでもいいわ!」

(自由と平等のために戦い、平和で豊かな世界を目指すというキウパラたちの思想に触れて、私は自分の進むべき道をせっかく確立させたのに…)


レオン・セシールという悪魔の名前が出た途端、突如、頭の中にも彼女がドーンとしゃしゃり出てきて、しなやかな身体をくねらせながら、無駄に華やかな笑顔を振りまいて踊ってる。


あーー💢 頭がどうにかなりそう!!


ラウガはそんなクレインを見て苦笑い。でもまさか本気でレオンを嫌っているとは思っていない、婚約者であるわけだし、なんだかんだ一緒に行動するようだし。


「 でもなんかの新しいプロジェクト、一緒にやるんだろ? ルフィーもそのチームに入ったとかいってたし 」

うらやましい、オレも参加したいなぁ


「えーーー?なに?私が?なに?」

「ん?聞いてないのか?レオンは得意気に話してたぞ、なんでも今回のプロジェクトは壮大で…」


クレインは目の前が真っ白になっていく。ラウガの話はだんだん聞こえなくなっていた。


レオンの企みが何か透けて見えるのは気のせいか?

あの女の陰謀が、あの女の薄汚い手口が目に見える。


あーどうか、神様、私のおぞましい感が当たりませんように…

どうかあの邪悪な女から私をお守りください。


クレインはぶつぶつと祈りながら、足は勝手にレオンの元へと向かっていた



―――――――――――



ここはファーストビル最上階の一室、レオンのくつろぎスペースだ。

本宅はファイヤーメイにあるが、今は一年の半分はここを使っている。


「どんな企ても私には通用しないから!まさか今度のことも番犬ルフィーを手に入れるためのお前の謀りごとか!」


クレインは乗り込んで来た途端、いきり立っている


「…‪💧‬  私ってどんなイメージ?窮地の人間を助けてあげて、そんな言われようなの?しかも貴女にとって特別な…。駆け落ちまでした相手じゃない 」


レオンは愉快そうに微笑む。


「それをまだ言う?(`Δ´)違うの知ってて!」


「うふふ」


「そのわざとらしい笑いが悪魔にしか見えない 」


クレインはレオンを睨みつけ、もっと、もっと口汚く、どんなふうに罵倒を浴びせようかと考える。


そんな視線を遮るように、スズカがティーセットを運んできて、テーブルに置いた。


「早く座って。お茶でも飲みなさいよ。レオンは、そのままだったら刑罰処分になってしまうルフィーを救ったのよ。その上、すぐには部隊に戻りずらいだろうとL&P高射部隊にさりげなく迎えたの!レオンは弱い者の味方なのよ、言わば下級ソルジャーの神よ!」


すっかり板に着いたスズカの崇拝的な執事官ぶりは、パラメール復興再開発任務【瓦礫】 のころだろうか、こうして人を容易く洗脳して手足のように使う。


クレインはますますレオンに対する嫌悪感を募らせる



「私は行かないわよ、ルフィーだって飛ばない任務なんて受けないだろう!」


レオンはそれには答えず、ティー カップに描《えが》かれたダリアの花のモチーフを眺めている


「レオンね、このカップお気に入りなの…。葉っぱを彩るデザインはよくあるけど、花も描かれている物は珍しいのよ」


ダリアの葉は、戦いの女神像イザルナミアンの冠にモチーフされている勝利に導く力の象徴だ。


しかし花には、“いびつな恋” という妙な花言葉を持つ裏面があった。


クレインはそんなことなど興味もなければ知りもしない。


「そんなこと、どうでもいい!人の話しをちゃんと聞いて!」


叩き割ってやろうかしら、

そんな想いを視線に込める。


「…恐い顔しないで。  みんなで行くのよ」


レオンは眉をあげて大きな瞳をぱちぱちする。


「はあ?みんなって?」

意味が分からない…といぶかしげな様子のクレイン


「…ロットからはスプラ、地球組のレイラたち。そしてあなたも…。きっと行くって言うわ 」


ポチッ


ディスプレイの画面に触れると、オフート・レイカー中将の姿がドドーンと浮き上がる。


もちろん言わずと知れたクレインのランツ〔親〕だ。

クレインは目をひんむいた。


「!!レオン!!相変わらず、やり口が汚い!どんな手を使って、中将を引き込んだの!」


カッとなって、思わずホログラムを切断して立ち上がる。


「ひどいわね…。私の方がオフート様に指令を受けたのよ。そのおかげで今回の事だって丸く収まった、いくらなんでも小娘の私にどれ程の力があると思ってるの?買い被りよ  」


「そんなときばっかり、自分を小娘とかいう…」

「だって、レオン、小娘ですもの 」


レオンはふわりとクレインの隣に来ると、もう一度ディスプレイをそっと開いた。



オフート・レイカー再登場だ!


『クレイン、元気か?』


クレインは、ハッとなって思わず敬礼する。

このブラッセルは軍事国家の縦社会、親子と言えど甘えは許されないのだ!


『この1053プロジェクトには惑星の新しい未来、すなわち我々の次世代の将来にも影響を与えるだろう、先を見据えた素晴らしいプランがつまっている。レオンを補佐し、必ず成功させるのだ!まずはE424ビクトリア・ナーチに向かえ!地域包括調査を行ない、1053によるモデル地区としての適正度を測ること。調査の対象をここに添付した!よい報告を待っている  』


言い終わると、ニコニコ、ピース✌️

相変わらずお茶目なオフートは笑顔を残し消えてゆく。



「なっ!💦なんなの!こんな強引な話し!おかしいだろう!おかしすぎる」


クレインが混乱を極めている中、スズカがパネルボードを差し出し、拝命の声紋を求めてきた。


「拒否権はないわよ!貴女がそれでも逆らうなら、任務放棄と見なされ、厳重処分で軍法会議!執行委員会は全員を拘禁刑、そのあとは懲罰部隊行きに処す!

とのことですからね!あなた一人の我儘で、私たち全員を刑務舎に入れたいわけ?」


真に迫ったスズカの勢いは、もはや脅しの口調だ。


「全員って…💦なんで、そんなこと」


「クレインが応じない時は、受諾しなかったという連帯責任を問われるのよ!」


人差し指を振りながら、さらに険しい表情を見せる。


「ちょっと待って💦」


訳がわからず、クレインはすっかり動揺している。やはりオフートの影響力は大きいようだ。


「 要するに今回の調査は、貴女に手掛けて欲しいのよ。すごく重要な任務だから…」


クレインの前にいるスズカを下がらせ、レオンは優しくクレインの髪に触れる。

そして耳元にそっと ささやいた。


「オフート様の狙いは…別にあるわ。いわゆるこれは私たちのためのリゾート辞令。次世代を育む、そう子作りよ。でもクレイン、無理強いはしないわ、そうあなたは自由に、望んだようにすればいいから」


「!!」


クレインはレオンを見る


何を言ってるのか分からない!と言いたいが、分かっているだけに口に出せない。


オフートはずっとレオンとのリンクス(結婚)を望んでいる、いつまでも避けては通れないクレインだった。


「さぁ、とりあえず  お茶を飲みましょうよ。あなたにもオースフィッシュを入れてあげる。心も身体も解放されるから」


(あなたが誰を好きでも構わない、この手の中にあれば、それでいいの)


レオンの胸にダリアの花が咲き乱れる。


「…💦」


クレインはレオンの唇が触れた、 その耳の先から じりじりと熱く、高揚していくのを感じていた。